伊豆半島最南端制覇!!
3日目(2007年9月24日)の朝は爽やかな朝だった。
熱海の夜同様に暑くもなく寒くもなく、これまで散々苦しめられて来た『蚊』の被害 にもあわなかった。
『今日はかゆくない!』
昨晩の就寝前1時間にも及ぶ『蚊との格闘』の甲斐があった。それにしても暗いテン トの中で『ヤツ』を仕留めるのは大変だった…
「お早うございます。何処まで行くの?」
出発準備をしてキャンプ場を後にしようとした時、周辺を掃除していたおばちゃんに声を掛けらた。
「今日は『沼津』まで行くんですよ」
「凄いなぁ…気を付けて頑張ってねー!」
3日目は伊豆半島最南端の石廊崎観光から始まる。キャンプ場からは自転車で3分も かからずに到着し、まだ誰もいない駐車場の入口付近に自転車を止め、ここから先は徒歩で進む。天気は生憎の曇り空で風も結構強い。石廊崎の先端に到着するまでには廃墟となったお土産屋さんもあり若干薄気味悪かった…そして駐車場から歩く事約15分伊豆半島の『先っちょ』に到着っ!
「来たーっ!伊豆半島最南端っ!」
僕は暫くその場に立ち尽くし、景色を見ながら最南端到達の達成感に浸っていた…俺やったでーっ!… そして…
「伊豆半島最南端制覇したぞー!」
気が付けば海に向かって叫んでいた。でも…
「あれ…声ちっちぇなぁ…」
なんて自分自身に駄目出ししたりして、
「うぉーっ!伊豆半島最南端制覇したぞーおりゃーッ!」
と気合い十分。そして声高らかに『勝利宣言』をした。ここまで来たらテンシ ョン上がりまくって
「撮るっきゃないっショッ!到達証明写真っ!」
周りに誰もいない事を良いことに写真と動画撮りまくり!同じ様な写真を何枚も何枚 も…動画に至っては『到達の舞』なんていって3回も撮り直しました…え?誰もいないのにどうやって撮った
のかって…?もちろんセルフ・タイマーですよ!カメラセットして、カメラ前にダッシュして…『到達の舞』を踊る…いやぁ~誰も来なくて良かったぁ…
お兄さんは大丈夫
セルフタイマー撮影会を終え、僕は石廊崎に別れを告げ駐車場に戻る。その頃にはお土産屋も開店準備を始めており観光客の姿もチラホラ見えた。駐車場入口付近に止めておいた自転車の元へ行き出発準備をしていると駐車場受付のおばちゃんに声を掛けられた。
「お兄さんどうでした?」
「良かったですよ。でもピーカンだったらもっと良かったんですけどね…あと風がとにかく強くて、サングラス飛ばされそうになったし、僕もこんなんなって下手したら落ちちゃう所でしたよー」
僕は風で少しよろけるようなポーズを取りながらおばちゃんに伝えた。するとおばちゃんは僕の肩を『ポンポン』と叩きながら、
「お兄さんは大丈夫!でも本当に細い女の子とかには注意する事あるのよー」
「そーなんですか…でも僕も『ヨロ』なんてしてましたからね…」
「いやいやっ!お兄さんは大丈夫だからっ!アハハハハーッ!」
なんとも『僕が肥満』に聞こえてしまう会話だった…僕はあくまでも『ぽっちゃり型 』である(笑)そして改めて出発準備していると再びおばちゃんに声を掛けられ、
「お兄さん。これもってきなー」
とブルーベリーの飴ちゃんを2つ僕にくれた。昨日のカツ丼に続き、石廊崎の人々は なんとも温かい。
「これからどこまで行くの?」
「今日は沼津まで行きます」
「そうぉ気を付けて」
「有り難うございまーす」
僕は貰った飴を早速口にいれ石廊崎を出発した。途中昨日のお土産屋さんの前を通ると『兄さん』がシャッターを上げており、開店準 備をしていた。
「お早うございまーす!昨日はご馳走様でしたー!」
と僕から挨拶をすると、
「おぉ!あいよー頑張ってなぁーっ!」
と兄さん。…石廊崎は最高だっ!やっぱり旅ってのは良いもんだなぁ…僕はまた旅の魅力に取り付かれ、良いテンションで3日目のスタートを切る事が出来 た。
魔のマーガレットライン
石廊崎を出て西伊豆方面へ向かう。昨日までの平坦な道はどこえやらで、いきなり登り坂が始まった。
「えー!?南伊豆は平坦なんじゃないのかよーっ!」
そんな情報を雑誌から得ていた僕は『騙された感』で一杯になった…もう少し楽に距離を稼げるかなと思っていたのに…少し甘かった。石廊崎出発から3時間経過して稼いだ距離は僅か20km弱。平坦な道であれば1時間で稼げる距離だった。
「まぁでも…万が一ずっとこのペースで行ったとしても夜には沼津に到着するっしょ …その内どっかで下りになるハズだし…」
この時はまだまだ余裕があった。しかしその後も登り坂はひたすら続き傾斜もタフなモノになって来た。しかも最悪な事に先に進んではヘアピンカーブ、また進んではヘアピンカーブと走る割には実質的な距離は稼げない状況が続いた。
「あぁ…せめて海沿いを走れればなぁ…」
こんな時にいつも僕のモチベーションを上げてくれる『海』も、この区間ではあまり見る事が出来ない…
「あぁーつれぇ!最悪だーっ!」
と僕の気力も徐々に無くなり、苛立ちも出始めてきた時、道路沿いに小さくて奇妙な『立看板』を見つけた。
「『ネパールカレー・ティハール』…なんじゃこりゃ?」
しかも本当に車道沿いにあるにも関わらず『QRコード』がその看板には付いていた 。
「これって誰が読みとんの?」
実際に徒歩の人とか自転車を押して歩いている人でないと、それを携帯で読み取ろうとしない事は容易に想像が出来る。要は『意味の無いモノ』だと…でも逆に僕の様に『自転車を押して歩いている人』、単純に歩いている人は、面白い がってほぼ確実に読み取るとも思う(…あっ!えーっ?そこがターゲット?…んな馬鹿な…)『ネパールカレー・ティハール』なんとも興味深い。…ネパールカレー…おしっ!絶対に食ってやる…新たな意欲が湧いてきた。
謎のティハール
『絶対に食ってやるっ!』
最初の『ティハール』の看板を見てからも登り坂は続いた…でも僕の気持ちは『ネパ ールカレーを食うっ!』その一点に集中し、ひたすら自転車を『押し続けた』(恥 )。 その途中も『アジアン雑貨・ティハール』『ティハール・残り○km』と看板が出て 来る…そしてそのどれもが怪しい。
「あーもう絶対に行く!」
そんな怪しさが逆に僕のティハールへの興味を駆り立てた…それでもひたすら続く登り坂…
「あーキツイ…でも行くで…予定のルートを外れても行くぞーっ!」
もう途中からは興味とかとは別に『意地』になっていた。言って見れば『男の意地』 ってやつです。…くそー!ティハールめ…どんな店なんだよ!変な像とかが売ってんだろっ!カ レー作ってるのはネパール人か…自転車を押しながらどんどんと膨らむティハールの怪しいイメージ。そして石廊崎を出てから約4時間後、遂にティハール到着。
「あれーっ!?普通にお洒落じゃーん!」
ティハールは僕の抱いていた『怪しいイメージ』とは逆に、茶色いウッド調の外観に 黄色い看板が掲げてあり、オープンカフェみたいに外で食事もできるお洒落ネパール カレー屋さんだった。オープンカフェにはバイクでツーリングに来ている人達が集まっており、みんなでガ ヤガヤとはなしていて、見るからに『旅の休憩地点』そんな感じが出ていた。ただ店長さんとのやり取りを見ているとバイク人達は『常連さん』のようで、もっと よく見てみると、店の中で食べていた人も含めお客さん同士みんな『顔馴染み』だった。…あれ?もしかして俺だけ観光客?…
的な少し疎外感にも似た気分になった。そして念願のネパールカレーをオーダーする と…
「あぁすみません今ちょうどご飯が終わっちゃって、これから炊くんで3、40分か かっちゃうんですけど…」
完全なるアウェイだった…でも僕の答えは…
「大丈夫です!待ちます!」
もうここまで来たからには、食べないわけにはいかなかった。でも反対に夜 間走行を覚悟しなければならなかった…もういいやネタ重視…我ながら素晴らしい決断だと思った。