#02 負けてたまるかっ!!
まだ…死にたくないです
湘南の海を後にし国道134号(国道1号)に沿って熱海を目指す。
途中小田原市からは熱海に通じる国道135号に乗り換える。その国道135号が真鶴町に入るぐらいに一般道と真鶴道路(有料道路)に分岐する箇所がある。
僕は当然のように一般道方面に進み、それと同じくして僕は道路表示を見つけた「この先自転車右側歩道を走行」
僕はその道路表示に従い道路右側歩道へ移動。
右側車線に移動した事により向かいからはガンガン車が来る。そして200mぐらい走ると僕は驚愕の事実を目の当たりにさせられた
『歩道が無い!!』
「えー?右側走れって言ったじゃん!」
と独り文句を言いながら本来の左側車線を見る…
「あ…あっちも無いじゃん…」
そーなんです!要は国道135号には自転車が走れるスペースがないんです。
「これ…自転車…行っていいのかよ…」
そう思い事前に計画したルート設定を確認しても、走って来た道を振り返ってみても、間違いなく『迂回路』は無かった…
「この道を行くしかない…」
そしてまた国道135号を先に進む…ただ道路状況は変わらず、ある程度安心して走れるスペースは無い。
しかも時間的にも日は沈み、どんどんと暗くなってくる。
この頃からすれ違う車の動きが明らかに怪しくなってきて、僕のちょい手前でハンドルをきっているように見える…
俺の事…見えてんのかいな…
そして僕の進む道は『山道』となり曲がりくねってくる。こうなるといよいよヤバい。カーブの為に僕も対向車が見えないし、運転手さんも僕の事が見えていないのが容易に想像がつく。
カーブ曲がったら人が歩るってるなんて思ってないよな…
少なくても僕だったらそんな事思わない…実際にカーブを曲がり切った車が僕の手前でハンドルを切る…カーブで減速している分なんとかなっているような…そう考えると少しずつ『恐怖感』が出てくる…
「運転手さん…ひかないで…まだ死にたくないっす…」
僕の心の支え
僕は既に自転車を降り、自転車を押して歩いていた。
昼間ならともかく夜は視界が悪すぎる。しかもまだ伊豆半島に入ってはいないものの徐々にアップダウンと言うか『アップ』が始まり、走るスペースが無い道路の右側を『ふらふら』と走るのは危険と判断したからである。
「暗くなっちったな…」
時計を見ると19時になろうとしていた。東京の19時と、ここ真鶴の山道の19時とでは街灯が無いせいかまるで違う。
自分の足元さえもよく見えない。そんな中を僕は独り自転車を押しながら歩く。
時間が経つにつれ交通量も減り、頼りにしていた車のライトも無くなってくる。
『熱海まで○○km』
なんて道路表示が出てくれば、まだ少しは気の持ちようがあるのに、それもない。
「あとどれだけあんだよ…」
見知らぬ土地を走っている(歩いている)僕にはどこまでも続く先の見えない道にも思えて来てしまう。
とそんな時「♪それが男の夢♪」僕は無意識に丸山弁護士の歌を口ずさんでいた…
「♪それが男の夢♪チャララチャラララ♪チャラ~」
歌い出し以外知らないし、曲のタイトルも知らない…でも…何回も歌う
「♪それが男の夢♪チャララチャラララ♪チャラ~」
あぁそ~いえばこの歌、房総半島一周した時も歌ったなぁ…
あの時も初日だった。
千葉県銚子市を目指し利根川沿いのサイクリングロードをひたすら東へ向かっている時、猛烈な向風にあった。
こいでもこいでも前に進まず、結局夜になり、銚子に着く頃には雨にも降られた。
そんな時に口ずさんだのがこの歌だった。
そんな事を思い出すと、ちょっとおかしくなった…
「え?丸山弁護士の歌が俺の心の歌?そして今の心の支え?」
丸山弁護士には大変申し訳ない話ではあるが、それはあまり認めたくなかった…
悲劇は突然に…
やっとの事で静岡県に入り、熱海温泉街(市街)までは残り10kmを切っていた。
『もう少し』そうと自分を鼓舞している時に事件が起こった。
『ガタンっ!』
さほど大きくもない段差を自転車で乗り越えたその次の瞬間、目の前が真っ暗に…。
「うわっ!最悪っ!」
なんとライトだけが頼りのこの真っ暗な山道で、よりによってそのライトが取れた。
しかも地面に落ちたライトは、その衝撃で幾つかのパーツに分かれ真っ暗な道路に散らばってしまったのだ。
「やべぇ!これでライトが無くなったら洒落になんねー!」
僕は自転車を飛び降り部品を拾い集めようとした。でも暗くて殆ど見えない。
本当に僅かな月明かりの中で見えたのは、下り坂を転がっていく部品達…
頼むっ!自動車来ないで…
そう願いながら必死で追いかけて部品を拾い上げた。
そして結局拾えたのは全部で6つ。これで全部かも分からないが、幸いな事に主要パーツと思われる『電球』部分と『電池4本』と『電池ケース』を拾う事が出来た。
「これで行けんの…?」
と思いながらも、取り敢えず組み立てる…
「駄目だ…全然見えねぇ…」
まず電池を電池ケースに入れようとしたが、電池の+-は凸凹で分かるものの、どっちに+を向ければいいのかが暗くて分からない。
携帯画面の明かりを利用するも一定時間経つと暗くなるし、そもそもの明るさが足りない。辺りを見回すも街灯は無い。
もちろん街灯が有る所まで行けば良い話だが、万が一部品が足りなかった場合、この暗闇でこの現場を離れたら、もう部品は絶対見つからない。
「なんなんだよっ!」
何処にもぶつけられない怒りが込み上げてくる…でも…ライトといくら格闘しても直らない。
その後も少し格闘したが、あるところで僕の緊張の糸が切れた…
「もぅいいや…ライト無しで歩けば…」
少し『やけくそ』だった…
復活…?
「♪それが男の夢♪チャララチャラララチャラ♪」
僕はロクに車も通らない真っ暗な山道を自転車を押しながら歩いていた…
当初は『薄気味悪さ』も感じていた暗い山道も、慣れと言うのは大したモンで全く持って平気になって来る。とそんな時、前方に街灯発見!
「おぉ!街灯っ!」
僕は街灯の下に着くと、バラバラになっていたライトの電池ケースを取り出し、街灯に照らしながら内側を覗き込む…
「おっ!(+-表示が)見える…」
『これならば…なんとか直せそう』と思い、1度は諦めたライトの修理を再度試みる…そして…
「(ライト)ついたーっ!」
これには流石にテンションが上がった。
熱海温泉街まで全徒歩を覚悟したものの『熱海には何時に着くんだよ…』と少なからず心配していたのも事実だった…『カチッ』再び光を取り戻したライトを取り付け、僕は自転車に股がる。
「おっしゃー!」
地面から足を離すと下り坂の途中にいた自転車はゆっくりと進み始めた。
「行っちゃーでーっ!」
勢いも出てくる。そして坂を下り切った所にローソンがあった。
『そー言えばハラ減ったな』
僕はそのローソンでおにぎり1つとポカリを2本購入し、コンビニの外で食べ始めた。するとごみ箱掃除に来た店員のおばちゃんが僕に話かけて来た。
「何処まで行くの?」
「今日は熱海までです」
「暗いから気を付けて下さいね」
「有難うございます!」
暗闇の中を独り走って来た僕には凄く有り難く聞こえた。そして…
「まだ…坂ありますかね?」
「あ~あとちょっとあるかなぁ…でももうちょっとだから…」
そう言っておばちゃんは笑顔を見せてくれた…
「あ…そーっすかぁ…」
僕は苦笑いをするしかなかった…まだ…続くんだ…この坂…